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第66回 税理士試験 法人税法突破のために必要な法的思考力

第66回 税理士試験 法人税法突破のために必要なこと

税理士試験の法人税法突破のために
まず、あなたは、税務専門家としての基本的な素養を持っている人に習うことができていますか?
そうでなければ大変危険なことです。無駄に受験期間を延ばすことになります。

見分け方は、意外と簡単です。
下記4つの質問です。
・第一問を「理論」ということに抵抗ありませんか?
→「法的思考力」が必要な試験だから抵抗ありますよ。…みたいな回答ならOKです。

・法令等を正しく解釈・適用するとはどういうことですか?
→求められ続けていることだかよね。税法も法律だからね。また、税理士は法律家だからね、国税職員にも法律家意識を持たせているところだから税理士にも当然求められているよね。…みたいな回答ならOKです。

・「法的思考力」とはなんですか?
→法的三段論法というキーワードがでればOKです。さもなければ、法的三段論法って知っていますか?を的確に答えられればOKです。

・「説明する」とは何ですか?
→この能力をきちんとつけていかないとだめだからね。…みたいな回答ならOKです。

ひとつひとつ見ていきます。
税理士試験の第一問を「理論」という方は、税務専門家としての基本的素養を保持していません。
税理士試験で試されているものは「法的思考力」という認識が強ければ、ある意味、法的思考の一部概念である「理論」という言葉を使いたくないからです。
下記のアドレスを参照してみて下さい。「理論」ではなく第一問となっています。
各種専門学校への警告なのです。
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/point2014/04.htm

「理論○○を暗記しましょう。」
「一字一句丁寧に暗記しましょう。」
「この理論はAランクだから丁寧に暗記、この理論はCランクだからそこそこでかまわない。」
等々、発言する人も税務専門家としての「法的思考力」を保持していません。

暗記は、人間の能力を高める重要な訓練なのは事実です。軽視は禁物です。
但し、税務専門家としての基本的素養は「暗記力」ではありません。あくまで「法的思考力」です。
暗記は多大な学習時間を要しますが、「思考」をダイレクトに鍛えることはできません。
「思考」が鍛えられていないと、新しい物への抵抗感が強くなり「対応能力」も育ちません。
多大な学習時間を割いていても必要な能力を身に付けていないのです。

国税庁が与えてくれている大きなヒントにも一切気づかず、また気づかない人が作った問題や解答をベースに合否を判断するもの大変なリスキーなことなのです。
国税庁が公表してくれている税理士試験の第一問の出題のポイントがきっちりわかりますか?
一度読んでみてください。そして、この文面を見た後に再度読んで見てみてください。法的思考力の大切さが確実に理解できるはずです。

■第60回
基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、事実関係を整理・認識するとともに、それを踏まえて法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問う。

●基本的な制度って何ですか?
●事実関係を整理・認識するとはどういうことですか?
●法令等を正しく解釈・適用するとはどういうことですか?

これに明確に答えられる方が「法的思考力」を持った、言い換えれば、税務専門家としての基本的な素養を持っている方なのです。

続けていきます。

■第61回 第62回
法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問うこととしている。
第60回とほぼ同じですね。

■第63回
理論的な思考能力を問うこととしている。
事案に即して、的確な当てはめを行うことを求めるものである。

●理論的な思考能力って何ですか?
●事案に即して、的確な当てはめを行うとは何ですか?

この言葉は、「法的思考力」を持つ裁判官、弁護士から見れば実は常識的な言葉です。
法令等を正しく解釈・適用することができるか
では、税理士試験業界には伝わらないという前提で少しだけ具体化してくれたのかもしれません。

平成23年の国税通則法改正にともない公表されて通達の「調査」の意義を見ても法律規定に基づく、要件事実の認定、法令の解釈適用等々使われる言葉に「法的思考力」が不可欠になっています。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/

調査が「法的思考」前提として行われることを全面的に公表しています。だから今後は、税理士側に求めるものも「法的思考」なのです。課税庁としても「法的思考力」がない税理士だと税務調査の相手として時間のさらなる浪費になるのです。
そのような税理士がいたら困るのです。昨今の税理士試験で求められている「法的思考力」、言い換えれば税理士としての資質、素養が求められているのは、必然なのです。是が非でも「法的思考力」を身に着けてください。

法的思考力の基本を2つ上げます。
⑴ 法的三段論法を理解し使えるようにする
⑵ 2つの視点から検討する

法的三段論法
① 大前提(法令の解釈)
② 小前提(事実認定)
③ 結論
※①②は逆になることもあります。

概念自体をわかりやすく説明しているURLを二つリンクしておきます。

■国税通則法の通達改正にも言及してくれています。
http://torikaiblog3.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-dbb5.html

■税理士試験的には好ましくないですが税務の法的三段論法を所得税法を使い説明してくれています。
http://inspireconsulting.co.jp/blog/%E6%B3%95%E7%9A%84%E4%B8%89%E6%AE%B5%E8%AB%96%E6%B3%95%E3%81%A7%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B/

■第64回
税法の当てはめの前提となる事実認定を的確に行うことができるかどうか、さらに、その事実認定に基づいて、法人税法第22条における収益、費用、損失の計上時期について妥当な判断が行えるか、といった税務専門家としての基本的な素養を問うものである。

法的三段論法が理解できてはじめて、この文言の意味が理解できると思います。求められているのは「法的三段論法」だということをしっかり認識してください。
国税庁の質疑応答でかつ税理士試験にも出題されたURLをリンクします。
これは、法的三段論法で説明されています。この説明ができるような訓練を積んでいなければ、「法的思考力」も育たないのです。

https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/26/03.htm

質疑応答を漠然と読んでいるだけではだめです。法的三段論法を内包している部分を感じ取り丁寧に読まないといけないのです。
法令の解釈、事実認定、結論というものが自然にできるよう訓練していくことが大切なのです。理論○○を暗記する時間があるなら、質疑応答と同等の説明ができる説明力を身に付けたほうが、税理士試験で求めている税理士としての素養、資質ともリンクします。

2つの視点について触れていきます。
ある事例に対して、課税が行われるか否か双方の視点を持ち、どちらがより法的三段論法で成り立つ考え方なのかができる必要があります。
2つの視点がしっかり浮かばないで1つの視点でしか思考が働かないのは法的思考力の欠如でもあるのです。

説明することの大切さに最後は触れていきます。
財務官僚の多くが卒業する東京大学の現代国語の設問を見たことがあります。
漢字問題以外はすべて「説明せよ」です。
説明するということは、自分言葉でわかりやすく端的に表現する力です。

アインシュタインの名言に
「あなたの祖母に説明できない限り、本当に理解したとは言えない。」があります。知識があって設問を的確に読解できて初めてできるものです。
遠回りのように見えるかもしれませんが、説明力が不足していると感じている方は、説明することに真摯に一度向き合う必要があると思います。
税理士試験は、財務官僚が作成しています。1年分で良いので東京大学の現代文と向き合って説明する力のヒントを感じ取ってください。

説明力、法的三段論法は実社会の実務の上でも大切な力になります。

第64回税理士試験では説明する力も求められました。
「連結納税制度の固有の項目につき、必要な知識を有しているかどうか、また、その知識を第三者に対して簡潔・適切に説明できるかどうかを問うこととしている。」
この文言に向き合ってもらいたいです。

下記の出題のポイントの第一問を見て「法的思考力」が問われていることをしっかり認識してください。
そして、真摯に身に付けていくことが大切な税理士としての資質や素養につながります。その通過点が試験突破なのです。

第60回
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/point2010/04.htm

第61回
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/point2011/04.htm

第62回
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/point2012/04.htm

第63回
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/point2013/04.htm

第64回
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/point2014/04.htm

税理士試験 消費税法 第70回 予想

消費税法が受かりにくい。何度やっても相性が悪い。
よく耳にしてきました。

解決策は非常に簡単です。
結論から言えば、

知っている基礎知識を具体化する。
具体化するために調べて納得する習慣を身に着ける。

つまり
活用できる知識を身に着けていけばよいのです。

 

下記事項を参考にして、求められていることをしっかり感じ取れれば、必ず突破口は見つかります。
消費税法 第64回の第一問の問2(3)を見たとき、消費税法令を理解できているか鋭い問題と感じるとともに実務上の問題点を見事に出題して税理士の素養があるかどうかをきっちり試した問題だと感じました。
何よりも、具体化されていない知識は意味がないという意図で出題されています。

 

問題
当法人は、特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人であり、特別養護老人ホームに入所する要介護者に対する介護福祉サービスを行っています。
当法人は、この老人ホームの入所者に対して食事を提供するために調理業務を外部業者に委託していますが、この委託業務について、消費税法令の適用関係はどのようになりますか。

 

早速見ていきましょう。
「介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなど」
たいていの受験生は暗記していると思われる文言です。
暗記をしているけど、具体化ができていないのです。

「介護保険法とはどういう法律なのか?」
「調理業務は保険給付の対象となるのか?」

 

当たり前のことなのですが、暗記のみの方にはすごく難しく感じたかもしれません。
インターネットで、介護保険法の第一条を見てみる。介護保険法に検索をかけ保険給付を調べてみる。他、インターネットで介護保険法、保険給付、調理業務を調べてみる。
生きた知識を作りたいと思う気持ちが大切なのです。それこそが、知識をベースに生きていく税理士としての素養につながっていくのです。

 

「税務」、言い換えれば「税の実務」は、お遊びではないのです。税金は、企業の大切なお金を公益性、民主主義を支えていくために納得して支払ってもらうものなのです。税金の大切さをしっかりと伝えられるのも税理士の資質なのです。
具体化がされていない誤解答例を2つ記載します。

誤解答例1

委託業務に係る役務の提供は、社会福祉法人に対して行われるものであるから、非課税の規定により消費税が課されないものではないため、国内における課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる。

 

だめな理由を列挙します。

・主体が外部業者からいきなり当法人にかわり説明力不足。
・「から」「ため」の関係に論理性がない。
・調理業務に言及がない。
・仕入税額控除は、本設問の中心テーマではない。設問は、委託業務の支払いについて問われている問題ではない。

 

誤解答例2

委託業務に係る支出は国内における課税仕入れに該当し、仕入れに係る消費税額の控除の対象になる。
なお、介護福祉サービスは、非課税取引に該当するため、当該非課税取引のための課税仕入れは、個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合には、その他の資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れとして区分され、当該課税仕入れ等の税額は控除されない。
また、一括比例配分方式により仕入れにかかる消費税額を計算する場合には、当該課税仕入れ等の税額に課税割合を乗じて計算した部分の金額が控除される。

 

だめな理由を列挙します。

・直前が仕入税額控除の問題という認識があれば、このような解答にいたらないはず。
・調理業務に言及がない。
・致命傷は、委託業務を支払と限定し、委託業務の売上部分を見落としている点です。売上は、課税になるということを完全に見落としているため、当該課税仕入れ等の税額は控除されないと言い切った部分。
・仕入税額控除は、本設問の中心テーマではない。設問は、委託業務の支払いについて問われている問題ではない。

この問題を解くための前提をお話します。

まずは、下記文部科学省が出した照会をしっかり理解することからです。

https://youchien.com/info/news/archives/_data/070402_qa.pdf

 

食育、安全確保というキーワードで否定しにくく照会をした結果、国税庁はOKと言ってくれました。
言ってくれたのですが、国税庁のホームページからは、この照会は削除されてしまったのです。
これを曲解して非課税にする実務例が多くなり削除されたものと思います。

曲解して非課税にした例を本設問で作成してみました。

 

老人である要介護者は、当然、食事のために一人で外出することもままならず、まして養護なしに、自身で食べることもできない場合もあります。生きていくうえで必要不可欠である食事の提供業務は、居宅サービス、施設サービスの一環として考えられるため介護保険サービスの提供として非課税となる。

 

実務的に、このような解答を作り出す方が出てきたので、国税庁のホームページから削除されたのでしょう。でもこのように逆を考えられないと正解もだせないと思います。
非課税、課税の双方がでる思考でどちらがより正しいか検討していく能力が必要なのです。

だめな理由は、
平成17年以降、栄養管理以外の基本食事サービス費は保険給付の対象から外されてしまったからです。
ここはあくまでも税理士試験です。中立の立場でものを考えられるか、善管注意義務が働くか。主張が自己中心的思考に陥っていないか。何より、きちんとした読解力があるかが試されているのです。

ここまでわかれば、
国税庁のホームページの「非課税取引」の「介護保険サービスの提供」を理解できるはずです。具体化が出来た知識は、きちんと機能するものになるのです。

参考

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000394648.pdf

介護保険サービスの提供

介護保険法に基づく保険給付の対象となる居宅サービス、施設サービスなど  ただし、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は非課税取引には当たりません。

 

食事サービスが書かれていない→施設サービス「など」に強引に含まれていると考えるような思考は危険。
送迎がだめとなれば、文部科学省の例を思い出し食事もだめかもと思う思考が大切なのです。

 

解答例

特別養護老人ホームの入所者に対して食事を提供する食事サービスの提供のうち調理業務に係るものは、介護保険法に基づく保険給付の対象となる介護保険サービスの提供になりません。非課税取引にならない以上、課税取引となります。
また、食中毒とかの問題発生した際に、責任を外部の業者にすることも適切でないため預り金処理を実施することも適当ではないです。

参考1

参考条文もしっかり見ながら質疑応答をきっちり見てください。基本問題として位置付けていると思います。

要介護者が負担する介護サービス費用の取扱い

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/08/05.htm

 

「日常生活に要する費用」の取扱い

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/08/06.htm

 

非課税となる「居宅サービス費の支給に係る居宅サービス」の具体的な範囲

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/08/07.htm

居宅サービスにおける利用者負担の交通費等の費用の取扱い

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/08/08.htm

福祉用具貸与に係る取扱い

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/08/09.htm

 

施設サービスにおいて提供される自己選択サービスの取扱い

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/08/01.htm

 

 

 

参考2

基本食事サービス費は、以前は、調理、食材料、栄養管理等から構成されていました。設問に使われている調理業務という言葉も意味がある言葉だったのです。読み落とさないようにしてください。
預り金処理は、文部科学省から照会されていた概念です。預り金処理ができるということは、課税の対象から除外できることでしょうが、実務的にできるかは困難な論点です。1年間分を預かりその金額をそのまま支払うということはすごく難しい話なのです。預り金とは預かったものをそのまま渡すという概念なのです。食材料ならまずできないでしょう。食材費は天候などにより日々変動するからです。調理費はできるようにも見えますが、消費税率のアップや何より責任主体を外部に移すことは入所者の親族からも信頼や同意は得られないと思います。
設問が、「です・ます調」で書かれているので、「です・ます調」で回答するようにしてください

 

参考2

幼稚園における給食の提供及びスクールバスの運用に係る消費税の取扱いについて(照会)

平成19年1月17日

国税庁課税部消費税室長 殿

文部科学省初等中等教育局幼児教育課長

1 給食の提供について

幼稚園は、「幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長する」ことを目的としている(学校教育法第77条)が、幼稚園における食育の推進の観点から、本職において「幼稚園における食育の推進について」(平成19年1月17日付18初幼教第9号)を通知したところである。

このような食育の推進の観点から提供される給食は、当該幼稚園における教育(保育)活動として一体的に行われるものであるため、給食に掛かる経費についても教育(保育)の実施に必要な当然の経費として、授業料(保育料)と一体的に徴収することが実態に即しているものと考えられる。

現在、幼稚園においては、授業料(保育料)とは別途に給食(食事)の提供の対価として給食代を徴収していることから、消費税が課税されているが、上述のとおり、給食に係る経費は、食育の観点から教育(保育)の実施に必要な経費であるため、授業料(保育料)として徴収することとする場合、このような給食に掛かる経費が含まれている授業料(保育料)については、その全体が消費税法別表第一第十一号にいう「授業料」に該当すると解釈してよろしいか、お伺いしたい。なお、この場合において給食に掛かる経費について授業料(保育料)で賄っている旨の表示等を行うこととしても特段の問題がないと考えるが、併せてお伺いしたい。

また、外部搬入に係る給食代については、幼児の保護者から当該外部搬入に係る取引先に対する代金として前述の授業料(保育料)と明確に区分して幼稚園が収受し、当該代金を預かり金等として処理している場合の当該代金は、幼稚園における資産の譲渡等の対価の額に含めないものとして差し支えないか、お伺いしたい。

 

2 スクールバスの運用について

最近登下校時に幼児等が事件や事故に巻き込まれる事態が生じており、通園時の安全確保が求められていることから、先に「登下校時における幼児児童生徒の安全確保について」を通知し、登降園時の幼児等の安全管理の徹底を要請したところである。さらに、本職において「幼稚園におけるスクールバスによる安全確保の推進について」(平成19年1月17日付18初幼教第10号)を通知し、徒歩では通園できない幼児の安全確保の手段として幼稚園の運営に必要な設備であるスクールバスにより、安全確保に努めるよう要請したところである。

現在、遠隔地等に居住する幼児の送迎の対価として収受するスクールバス代については、消費税が課税されているが、上述のとおり、登降園児の幼児を巡る事件、事故が多発しており、幼児の安全確保の観点からスクールバスの運用は遠隔地等に居住する幼児にとって欠かせないものとなっている。また、スクールバスは、園外活動等を実施する場合の移動手段としても使用するものであり、幼稚園の設備として重要な機能を果たすものである。そのため、スクールバスの維持・運用のために必要な費用を算定し、施設設備費として徴収する場合の当該施設設備費については、消費税法別表第一第十一号にいう「施設設備費」に該当すると解釈してよろしいか、お伺いしたい。この場合において、施設設備費よりスクールバスの運用を行っている旨の表示等を行うこととしても特段の問題がないと考えるが、併せてお伺いしたい。

なお、このようなスクールバスによる安全確保は、幼児が未就学年齢であることに起因するものであり、幼児教育固有の必要性から実施するものであることを申し添える。

第64回 税理士試験 法人税法 債務確定??? 地代として損金算入??? 第一問 問1(1) 

第64回 税理士試験 法人税法 第一問 問1(1)

■ビデオ



■レジュメ
第64回法人税法第1問 問(1)

事実認定を的確に行うために
まずは読解力を徹底的に鍛える必要があります。
読解のためには論理力も必要です。
自分が読んでわかるところのみで読み取った独断的な解答で素養を示すこともできません。
また、それを的確にわかりやくく説明するためには訓練も必要です。

「理由を付して簡潔に説明しなさい」
この問いに答えていくために何をすればよいのか。

下記のアドレスを参考にしてください。

https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/26/03.htm

【照会要旨】を問題として
【回答要旨】を解答として
事実認定を踏まえながら論理的に解答できる訓練をしていけばよいのです。

また、実務力の強化するために
中小企業の社長に土地を買いたいと相談されたらなんと答えますか?
借地権とは何ですか?
借地権の怖さを感じ取っていますか?

税(の実)務は遊びではないのです。
知識を活用していくことを日ごろから強く意識していく必要があるのです。

第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 棚卸資産

■ビデオ



■レジュメ
第64回法人税法第2問棚卸資産


低価法による評価損(法29 令28)と資産の評価損(法33)の識別を問われた問題
選定が必要な評価損と不要な評価損の識別ができるか?


棚卸資産のうち、原材料について次のことが判明した。
K材料3,510,000円は、甲社製品の仕様変更により、今後、製造工程に投入されることはないため、転売するしか処分の方法はない。相場の回復も見込まれないことから、取得価額の40%相当額の低価評価損を計上し、原材料勘定から減額した後の金額を計上している。


損金の額になるのかならないのか?
■ 損金の額に算入できる解答例
K材料は甲社製品の仕様変更により、今後、製造工程に投入されることはなく、転売するしか処分の方法はない価格の回復も見込まれないため低価評価損についての調整は不要である。
一見よさげに見えますがあってないと思います。

■ 選定なしには損金の額にはならない
・著しい下落は50%以上なくて著しいとなるのか?
・基本通達9-1-4は、材料について適用はあるのか?
・仕様変更での材料自体に評価損が認められるのか?

→低価法の適用ならば可能だが評価損はできない。
→先入先出法による原価法(会計的には低価法を包括)を採用しているが、税務上は先入先出法による原価法による低価法を選定していないと低価評価損は認められない。

低価評価損と評価損の識別ができるかを問われている論点です。
損金の額にはならないという解答が出せるように棚卸資産評価基準を踏まえ検討できるようにしてください。

また、製品や商品以外の棚卸資産。具体的には材料や仕掛品に低価法の承認申請を実施すると税務署等から理由を問われることもあるはずです。明確な理由がなければ材料や仕掛品を除いて承認申請を実施しているケースも多いはずです。材料や仕掛品に低価法が起こりうることは起きにくい業種もあるかもしれません。
監査会計実務では仕掛や材料であろうと低価法を測定するノウハウは出来上がっています。監査会計の視点もあれば、
「開発中の製品は受注金額を上回ることも起こりうること」
「投入されず長期滞留在庫になることも想定されること」等の理由も解答でき不用意に材料や仕掛品の承認申請を拒まれることもなくなるはずです。
問われる点は非常に高度だと思います。似ている言葉をつなげて作った解答は課税実務上は非常に大きなリスクになります。

根拠法令等
●4.棚卸資産

(資産の評価損の計上ができる事実)
令第68条
 
法第33条第2項 (特定の事実が生じた場合の資産の評価損の損金算入)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であつて、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。
一  棚卸資産 次に掲げる事実
イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと。
ハ イ又はロに準ずる特別の事実


(棚卸資産の著しい陳腐化の例示)
9-1-4 

令第68条第1項第1号ロ《評価損の計上ができる著しい陳腐化》に規定する「当該資産が著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいうのであるから、例えば商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当する。(昭55年直法2-8「三十一」、平17年課法2-14「九」により改正)
(1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。
(2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。

(棚卸資産について評価損の計上ができる「準ずる特別の事実」の例示)
9-1-5 
令第68条第1項第1号ハ《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に規定する「イ又はロに準ずる特別の事実」には、例えば、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれる。(平12年課法2-19「十三」、平17年課法2-14「九」、平19年課法2-3「二十一」、平21年課法2-5「七」により改正)


(棚卸資産について評価損の計上ができない場合)
9-1-6 
棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、令第68条第1項第1号《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に掲げる事実に該当しないことに留意する。(平12年課法2-19「十三」、平17年課法2-14「九」により改正)

(時価)
5-2-11 

棚卸資産について低価法を適用する場合における令第28条第1項第2号《低価法》に規定する「当該事業年度終了の時における価額」は、当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額(以下5-2-11において「棚卸資産の期末時価」という。)による。
(注) 棚卸資産の期末時価の算定に当たっては、通常、商品又は製品として売却するものとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る。)及び見積販売直接経費を控除した正味売却価額によることに留意する。

【解説】
1  平成19年度の税制改正により、棚卸資産の期末評価について低価法を適用する場合における棚卸資産の評価額が「当該事業年度終了の時におけるその取得のために通常要する価額」(いわゆる再調達原価)から「当該事業年度終了の時における価額」に改められた(令28①二)。
 「当該事業年度終了の時における価額」とは、いわゆる時価のことであり、一般的には正常な条件により第三者間で取引されたとした場合における価額と解されている。
 そこで、本通達において、棚卸資産について低価法を適用する場合における「当該事業年度終了の時における価額」は、当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額であることを明らかにしている。

2  企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(平成18年7月5日企業会計基準委員会)(以下「棚卸資産会計基準」という。)においては、通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産の期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることとされている。この「正味売却価額」とは、売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう(棚卸資産会計基準5)。
 本通達の「棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」は、棚卸資産を商品又は製品等として売却するものとした場合において見込まれる売却価額であるから、通常は、この「正味売却価額」によることとなる。本通達の注書においてこのことを明らかにしている。

3  ところで、棚卸資産会計基準では、正味売却価額の算定に当たり、売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とし、これには期末前後での販売実績に基づく価額や契約により定められた一定の売価を用いる場合を含むこととされている(棚卸資産会計基準8)。法人がこのような方法により合理的に算定された金額を棚卸資産の期末評価額として低価法を適用している場合には、税務上も、当該期末評価額は法人税法施行令第28条第1項第2号の「当該事業年度終了の時における価額」として取り扱われよう。

4  さらに、棚卸資産会計基準においては、企業の会計実務を考慮して、製造業における原材料等のように再調達原価(購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したものをいう。)の方が把握しやすく、正味売却価額がその再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価を含む。)によることができることとされている(棚卸資産会計基準10)。
 製造業における原材料等のように製造工程に投下されていない棚卸資産については、未だ新たな付加価値が付与されていないことから、当該原材料等の棚卸資産の正味売却価額はその最終仕入価額や再調達原価とおおむね一致するものと考えられる。したがって、税務上も、法人がこのような棚卸資産に限り、いわゆる再調達原価により算出した金額を当該棚卸資産の期末評価額として低価法を適用している場合であっても、これを法人税法施行令第28条第1項第2号の「当該事業年度終了の時における価額」として取り扱って差し支えないものと考えられる。

5  なお、「棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」は、棚卸資産を商品又は製品等として売却するものとした場合において見込まれる売却価額であるから、資産の評価損益の計上を行う場合における時価である「当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額」(法人税基本通達4-1-3、9-1-3)や、スクラップ等としての処分価額とは異なることとなる。

棚卸資産評価基準
通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準
7.通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額もって貸借対照表価額とする。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差’額は当期の費用として処理する。

8.売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とする。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含む。

9.営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、その状況に応じ、次のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するよう処理する。
(1) 帳簿価額を処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)まで切り下げる方法
(2) 一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法

10.製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価法を含む。以下同じ。)によることができる。

第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 繰延資産

第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解説 繰延資産
減価償却超過額の空欄は無意味なものではない。

税法固有の繰延資産は、長期前払費用として処理することになります。
会計基準がなく、かつ、法人税法で定める処理に拠った結果が、経済実態をおおむね適正に表していると認められるため、3年で償却していくこととなる。繰延資産の償却額の損金算入に関する明細書を作成し、償却限度額を算出し、償却限度額を超えたものは損金の額に算入されないことになります。

今回の設問では、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準で処理が行われている前提です。当期に費用化した金額1,300,000円となるならば、
前期に費用化した金額は、650,000円となります(支出日から決算日までが6月のため)。
となれば支出額は、2,500,000円+650,000円の3,150,000円になります。
(科目が前払費用。支出額が3,150,000円となると本体 3,000,000円。消費税処理がきになりつつも、消費税について特に指示がないという前提で消費税は無視します。)

前期は
(3,150,000-2,500,000)-3,150,000×6/36=125,000円
この金額は繰延資産償却超過額ですが、この金額を期首の別表五(一)の数値として把握する必要があるのです。
そのヒントが減価償却超過額なのです。
【資料4】
作成途中と書いてあることを読み取っているか。
別表五(一)も作成途中なのです。
あってないということです。でもヒントをいれてくれているのです。ちなみに繰越損益金も利益準備金が重複した形で計上されています。
今期は
(2,500,000-1,200,000)-3,150,000×6/12=250,000円
の繰延資産償却超過額が算出されます。

別解として
支出額を
2,500,000×36/30で計算し3,000,000円とすることも考えれられます。
一見よさそうに見えますが、3,000,000円で前期は6月で500,000円を費用化し、今期は1,300,000円費用化したということになり公正妥当な会計処理による会計処理になっていないです。減価償却の資料を見ても会計処理に規則性が感じられます。ここを鑑みて別解は成り立たないでしょう。
毎月87,500円を3年間で費用化しているという会計処理を読み取る必要があります。
(作問者は、数値作りも上手です)。
支出額を3,150,000円とする場合と
支出額を3,000,000円とする場合
どちらも正解に見えるかもしれません。税理士の実務は論理的によりどちらが成り立つかを検証する機会が多々あります。
そこまで踏まえた設問なのです。

会計基準を無視し、また会計数値が無意味なもので減価償却超過額や繰延資産償却超過額の練習をしていたのでは解答にたどりつけないだけではなく繰延資産の存在にすら気づかないかもしれません。また、別表五(一)も無意味な減価償却超過額ではないのです。
参考までに、個人所得税の事業所得では、減価償却も繰延資産償却も同一用紙に記載します。

第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 租税公課が得点源???

■映像



■レジュメ
第64回法人税法第2問租税公課


実務力を試す芸術的問いに感動しました。
租税公課が得点源と言っているようでは一生解明できない問いです。

■【資料2】未払法人税等を空欄にしている
■【資料4】作成途中とされた別表五(二)
■中間法人県民税納付額412,800円に隠されたヒント

これを読み取って読解力、検証力を駆使し適正な申告書を作成していくのです。

【資料4】
作成途中と書いてあることを読み取れば、別表五(二)も作成途中だということがわかります。
作成途中=完成していない=あってない
ということです。
あっていない資料で調整してはいけないのです。

税引前利益が 102,466,100円も読み取るべきです。

・当期純利益  79,506,100円
・納税充当金  17,750,000円
・中間納付額   5,210,000円
(計102,466,100円)

大きな減算項目が想定されない以上
40,000,000円くらいの税金が必要となります。
現処理では
・中間納付額  5,210,000円
・納税充当金  17,750,000円
(計22,960,000円)
 

納税充当金の少なさもわかるでしょう。だからこそ作成途中なのです。

これが検証力で大切な力なのです。
第62回にも前期の状況から状況をくみ取る租税公課の問題が出題されています。
租税公課が得点源だったことは最近の本試験ではないのです。

中間納付額の法人事業税1,770,000円を見て別表5(2)の事業税の取崩額3,554,000円を見て約2倍の関係だと捉えられる数的感覚も税理士実務には必要です。
前期の見積額が当期の中間の約2倍だということは前期は中間納付はなかったと読み取る力も必要です。

ここまで解明と検証をかけて

■法人税   2,064,000円×2=4,128,000円
■法人事業税 1,770,000円×2=3,540,000円
■法人県民税  412,800円×2= 825,600円
■法人市民税  963,200円×2=1,926,400円
次に
■復興特別法人税ですが
4,128,000円×10%=412,800円です。
なんと法人県民税と同一数値。作問者のヒントです。

上記金額を合計すると11,099,200円ではなく10,832,800円です。
差額266,400円は余剰取崩と判断すべきでしょう。

【資料2】の前期の未払法人税等を空欄にしているのもそこに気づいて欲しい意思表示です。
納税充当金支出事業税等は、3,554,000円ではなく 
3,540,000円+266,400円の3,806,400円です。

取崩額は
法人税額等は
4,128,000+412,800+825,600+1,926,400=7,292,800円(7,545,200円より修正)
事業税は
3,540,000円(3,554,000円より修正)
余剰取崩
266,400円

損金経理をした納税充当金も追加計上の必要性を指摘すべきだと思います。
税額がいくらになるか
そこに向けてズレていた場合、処理に間違いがないかをすぐに検証していく力はを試した問題であり計算知識を試した問題ではないのです。

正しい検証力や数的感覚を持つ税理士像を想定し作成された問題です。

そこを真剣に作問している芸術だと思いました。
他の問題も上記のような感性で全問題作られています。
追々解説していきます。

タックスヘイブン活用事例

2014年4月24日
日本ビジネスプロデューサー協会の依頼により
伊藤国際学術研究センターで
タックスヘイブンの講演をやらせていただきました。
難しいテーマですが、
脱税と租税回避には大きな隔たりがあることが
改めてわかりました。
「真剣に考え抜いた人に恩恵がある」
税金もビジネスも根幹が共通しているのが
嬉しかったです。

ダイジェスト版です。
http://youtu.be/lg9RDNDfF7g

■法人税法 第62回 第一問 問2 解明のために

■法人税法 第62回 第一問 問2 解明のために

■16 第62回 第一問 問2 合併
1.問題
P社は米国において電子部品の製造業を営み、米国の証券取引所に上場された外国法人である。この度、日本における事業拡大のため、V県W市で電子部品の製造販売業を営んでいる100%子会社である内国法人のQ株式会社(以下「Q社」という。)を合併法人とし、X県Y市で電子回路を製造している内国法人のR株式会社(以下「R社」という。)を被合併法人とする合併を実施し、R社の100%親会社である内国法人のS株式会社(P社との出資関係はない。以下「S社」という。)に対して合併の対価としてP社株式を交付することとした。
以上の事実関係の下で、次の問いに答えなさい。
⑴ Q社とR社との合併が適格合併に該当するための要件について、合併対価に関する要件と合併当事者間の要件とに分けて、簡潔に説明しなさい。
⑵ Q社とR社との合併が適格合併に該当する場合におけるQ社、R社及びS社の課税関係について、簡潔に説明しなさい。

2.解答

問2⑴ 

(合併対価に関する要件)

合併対価に関する要件は、被合併法人の株主等(S社)に、次に掲げる株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないこととされており、いわゆる「三角合併」の場合には、②の株式以外の資産が交付されないことが要件となる。

① 合併法人株式(Q社株式)

② 合併親法人株式(P社株式)

また、P社株式を合併対価とるためには、P社が合併法人(Q社)の発行済株式等の全部を保有していることが要件となる。

 

(合併当事者間の要件)

合併前において合併法人(Q社)と被合併法人(R社)との間に出資関係がないため、次に掲げるすべてを満たすことが要件となる。

① 事業関連要件

被合併事業と合併事業とが相互に関連するものであること

② 事業規模要件又は経営参画要件

イ 事業規模要件

被合併事業及び合併事業のそれぞれの売上金額、従業員数、資本金額等の事業規模の割合が概ね5倍を超えないこと

ロ 経営参画要件

合併前の被合併法人の特定役員のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後の特定役員になることが見込まれること

③ 従業員引継要件

被合併法人の合併直前の従業員のうち、概ね80%以上に相当する数の者が合併法人の業務に従事することが見込まれること

④ 事業継続要件

被合併事業が合併法人において合併後に引き続き営まれることが見込まれること

⑤ 株式継続保有要件

合併直前の被合併法人の株主で合併により交付される合併法人の株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式全部を継続保有すると見込まれる者が有する被合併法人の株式数の合計額が被合併法人の発行済株式総数の80%以上であること。

なお、⑤については、株主等の数が50人以上では適用要件とはならない。

Q社の事業である電子回路の製造は電子部品の製造を行うP社、R社とも密接な関連があると想定されるのでリストラを実施せずQ社の資源を残すなら適格合併に該当する要件を満たす可能性は高いと想定される。

 

■参考 解答例

資本関係のない法人間で行う合併については、共同事業要件を満たせば適格合併に該当する。共同事業要件とは、共同で事業を行う(買収でない)状況であれば、被合併法人(R社)が清算したとしても実質が継続されているものとして課税の繰延を行うものである。

R社の実質が継続されるためには、電子回路事業を活かせる相手と、規模の差がなく(規模が違う場合には経営中枢人物が中枢に残ること)、リストラがなく、R社の電子回路製造事業が営まれていることが要件となる。

 

問2⑵

 

(Q社の課税関係)

⑴ P社株式のみなし譲渡

Q社が、合併契約日に、P社株式を保有していた場合には、P社株式をその合併契約日の価額で譲渡し、かつ、その価額で取得したものとみなすこととされている。

この規定は、Q社が合併対価として交付するP社株式で合併契約日において保有するものについては、その合併契約日に時価による譲渡をし、直ちにその価額で取得をしたものとして、それまでの含み損益を清算するためのものであり、その合併が適格合併に該当するか否かにかかわらず適用される。

 

⑵ P社株式の譲渡損益

Q社が、自己を合併法人とする適格合併によりP社株式(Q社の発行済株式等の全部を保有するP社の株式をいう。)をS社に交付した場合には、その譲渡に係る対価の額は、その適格合併の直前の帳簿価額に相当する金額とすることとされており、対価の額と原価の額が同額となるため、譲渡損益は生じないこととなる。

 

(R社の課税関係)

R社が適格合併によりQ社にその有する資産及び負債の移転をしたときは、最後事業年度終了時の帳簿価額により引継ぎをしたものとして、各事業年度の所得の金額を計算することとされているため、移転資産等の譲渡利益額又は譲渡損失額は生じないこととなる。

 

(S社の課税関係)

⑴ R社株式の譲渡損益

S社が、合併により、P社株式(Q社の発行済株式等の全部を保有するP社の株式をいう。)のみが交付された場合には、R社株式の譲渡対価の額を当該合併直前のR社株式の帳簿価額に相当する金額として計算することとされているので、対価の額と原価の額(合併の直前のR社株式の帳簿価額)が同額となるため、譲渡損益は生じないこととなる。

 

⑵ Q社株式の取得価額

S社が合併により交付を受けたP社株式の取得価額は、S社にP社株式のみが交付されたものである場合には、R社株式の合併の直前の帳簿価額に相当する金額に、P社株式の交付を受けるために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額となる。

 

 




3.国税庁の意図

 

会社法による合併等対価の柔軟化が平成19年5月から施行され、合併法人の親法人の株式を合併対価とするいわゆる三角合併が可能となった。これを受けて、税制においても、適格合併等における適格要件のうち合併等の対価に、合併親法人株式等以外の資産が交付されない場合のその合併親法人株式等が追加された。

問2は、外国法人が日本における事業拡大のために三角合併を行うという事例を題材に、それが適格合併に該当するための要件、適格合併に該当する場合の合併関係者の課税関係についての基本的な理解を問うものである。

以上、いずれも法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問うこととしている。

 

合併等対価の柔軟化の施行日は、会社法施行日の1年後となった。

合併等対価の柔軟性とは何を意味するのか?なぜ、施行が1年遅れたのか?

合併に際し合併対価が合併法人株式以外のものも可能になったこと、それにより三角合併が可能となり合併法人の親法人は外資系企業で良いことから外資系企業の買収も懸念されたため対策期間のため1年施行を延ばすこととなった。

法人税法も実は、簡単には適格合併にはさせない手法を三角合併に講じている。

対価の柔軟化といいつつ合併親法人株式のみしか認めていないこと。もうひとつは、合併法人から見て完全100%保有している親法人の親法人株式しか対価として認めていない点である。ある程度の規模の会社であれば従業員持株会を持つようになるが、それさえ認めていないのだ。ここまで、きちんと理解できれば、問題文の読みも変わってくるはず。P社は、米国上場企業で、事実上R社を買収し日本国の電子回路技術を手に入れ電子部品と販売網の構築を図る。Q社は100%子会社だからこそ適格合併ができる。三角合併という手法を使うためQ社への100%支配は変わらない。Q社自身が大きくなってもさらに適格合併を繰り返すことができる等々である。

 

 

 

 




4.参考・前提知識

 

⑴ 従業員持株会さえ認めていない「直接完全支配関係」

国税庁の意図で記載した従業員持ち株会さえ認めていない部分となる。これで適格要件を満たせない合併法人となるべく外資系企業もあるはず。

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/33/26.htm

 

⑵ 何度も出題される適格判断

過去に何度か適格要件が試されている。

第52回 第一問 問1

第54回 第一問 問2

第55回 第二問 問1

第62回 第一問 問2

 

この機会に適格要件を条文ベースでもしっかり確認すること。わからないところを解明しようとする姿勢が、解明力や読解力をつけていくことになるので、あきらめずに挑戦すること。

 

 




法人税法第2条第12号の8

適格合併… 

次のいずれかに該当する合併で被合併法人の株主等に合併法人株式

(合併法人の株式又は出資をいう。)

又は合併親法人株式

(合併法人との間に当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人の株式又は出資をいう。)

のいずれか一方の株式又は出資以外の資産

(当該株主等に対する剰余金の配当等

(株式又は出資に係る剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。)

として交付される金銭その他の資産及び合併に反対する当該株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除く。)

が交付されないものをいう。

イ その合併に係る被合併法人と合併法人

(当該合併が法人を設立する合併(以下この号において「新設合併」という。)である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)

との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併

ロ その合併に係る被合併法人と合併法人

(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)

との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併のうち、次に掲げる要件のすべてに該当するもの

⑴ 当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること

(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該相当する数の者が、当該合併後に当該合併法人の業務に従事し、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること。)。

⑵ 当該合併に係る被合併法人の当該合併前に営む主要な事業が当該合併後に当該合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること

(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該主要な事業が、当該合併後に当該合併法人において営まれ、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。)。

ハ その合併に係る被合併法人と合併法人

(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)

とが共同で事業を営むための合併として政令で定めるもの




法人税法施行令第4条の3

(適格組織再編成における株式の保有関係等)

法第2条第十二号の八 (定義)に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係は、合併の直前に当該合併に係る合併法人と当該合併法人以外の法人との間に当該法人による直接完全支配関係

(二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等

(同条第十二号の七の五 に規定する発行済株式等をいう。)

の全部を保有する関係をいう。)

があり、かつ、当該合併後に当該合併法人と当該法人

(以下この項において「親法人」という。)

との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続すること

(当該合併後に親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該合併法人と当該親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係があり、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人と当該合併に係る合併法人との間に当該適格合併に係る合併法人による直接完全支配関係が継続することとし、当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該合併法人と親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続することとする。)

が見込まれている場合における当該合併に係る合併法人と親法人との間の関係とする。

 

2 法第2条第十二号の八 イに規定する政令で定める関係は、次に掲げるいずれかの関係とする。

一 合併に係る被合併法人と合併法人

(当該合併が法人を設立する合併(次項及び第4項において「新設合併」という。)である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人。)

との間にいずれか一方の法人による完全支配関係

(当該合併が被合併法人の株主等に合併法人の株式その他の資産が交付されない合併(以下第4項までにおいて「無対価合併」という。)

である場合にあつては、合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係に限る。)

がある場合における当該完全支配関係

(次号に掲げる関係に該当するものを除く。)

二 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係

(当該合併が無対価合併である場合にあつては、次に掲げる関係がある場合における当該完全支配関係に限る。)

があり、かつ、当該合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること

(当該合併後に当該同一の者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該同一の者と当該合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係があり、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人と当該合併に係る合併法人との間に当該適格合併に係る合併法人による完全支配関係が継続することとし、当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該同一の者と当該合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することとする。)

が見込まれている場合における当該合併に係る被合併法人と合併法人との間の関係

イ 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係

ロ 一の者が被合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係

ハ 合併法人及び当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係

ニ 被合併法人及び当該被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係

 

3 法第2条第十二号の八 ロに規定する政令で定める関係は、次に掲げるいずれかの関係

(前項各号に掲げる関係に該当するものを除く。)

とする。

一 合併に係る被合併法人と合併法人

(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)

との間にいずれか一方の法人による支配関係

(当該合併が無対価合併である場合にあつては、前項第二号ハ又はニに掲げる関係がある場合における当該支配関係に限る。)

がある場合における当該支配関係

(次号に掲げる関係に該当するものを除く。)

二 前項第二号中「完全支配関係」とあるのを「支配関係」と読み替えた場合における同号に掲げる関係

 

4 法第2条第十二号の八 ハに規定する政令で定めるものは、同号 イ又はロに該当する合併以外の合併

(無対価合併にあつては、当該無対価合併に係る被合併法人のすべて又は合併法人が資本又は出資を有しない法人であるものに限る。)

のうち、次に掲げる要件

(当該合併に係る被合併法人の株主等の数が五十人以上である場合又は当該合併に係る被合併法人のすべて若しくは合併法人が資本若しくは出資を有しない法人である場合には、第一号から第四号までに掲げる要件)

のすべてに該当するものとする。

一 合併に係る被合併法人の被合併事業(当該被合併法人の当該合併前に営む主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。)と当該合併に係る合併法人の合併事業

(当該合併法人の当該合併前に営む事業のうちのいずれかの事業をいい、当該合併が新設合併である場合にあつては、他の被合併法人の被合併事業をいう。次号及び第四号において同じ。)

とが相互に関連するものであること。

二 合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業

(当該被合併事業と関連する事業に限る。)

のそれぞれの売上金額、当該被合併事業と合併事業のそれぞれの従業者の数、当該被合併法人と合併法人

(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)

のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね五倍を超えないこと又は当該合併前の当該被合併法人の特定役員

(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。)

のいずれかと当該合併法人

(当該合併が新設合併である場合にあつては、他の被合併法人)

の特定役員のいずれかとが当該合併後に当該合併に係る合併法人の特定役員となることが見込まれていること。

三 合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること

(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該相当する数の者が、当該合併後に当該合併法人の業務に従事し、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること。)。

四 合併に係る被合併法人の被合併事業

(当該合併に係る合併法人の合併事業と関連する事業に限る。)

が当該合併後に当該合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること

(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該被合併事業が、当該合併後に当該合併法人において営まれ、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。)。

五 合併の直前の当該合併に係る被合併法人の株主等で当該合併により交付を受ける合併法人の株式(出資を含む。)又は法第2条第十二号の八 に規定する合併親法人株式のいずれか一方の株式(議決権のないものを除く。)の全部を継続して保有することが見込まれる者

(当該合併後に当該者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該者が当該株式の全部を保有し、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人が当該株式の全部を継続して保有することが見込まれるときの当該者とし、当該合併後に当該合併に係る合併法人

(当該合併に係る被合併法人の株主等が当該合併により同号 に規定する合併親法人株式の交付を受ける場合にあつては、同号 に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人)

を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該株式の全部を継続して保有することが見込まれるときの当該者とする。)

並びに当該合併に係る合併法人

(当該合併に係る被合併法人の株主等が当該合併により同号 に規定する合併親法人株式の交付を受ける場合にあつては、同号 に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人を含む。)

及び当該合併に係る他の被合併法人が有する当該合併に係る被合併法人の株式(議決権のないものを除く。)の数(出資にあつては、金額。)を合計した数が当該被合併法人の発行済株式等

(議決権のないものを除く。)の総数(出資にあつては、総額。)の百分の八十以上であること。

 

5~23省略

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.補足説明

 

⑴ 三角合併とは

 

三角合併とは、吸収合併の一形態で、吸収合併時の合併対価(消滅会社の株主への対価)として、存続会社の親会社の株式を交付する合併形態のことをいう。

例えば、P社という米国に本社を置く会社があり、P社には日本に100%出資の子会社Q社をもっていた。このQ社が、日本企業R社を吸収合併した。

これまでの商法では、吸収合併を行う側のQ社(存続会社)は、吸収される側のR社(消滅会社)に対し、Q社の株式を割り当てなければならなかったため、合併前のR社の株主は、合併後のQ社の株主になるしかなかった。

しかし、新会社法では、Q社は消滅会社のR社株主に対し、Q社の株式の他に、現金あるいはその他の財産を交付してもよいことになった。これを「対価の柔軟化」という。

「その他の財産」が交付できる、すなわち、例に挙げたQ社は、R社の株主S社に対して、Q社の親会社P社の株式を交付することができるようになった。

実質的に、外国企業P社が、日本企業R社を買収したことになる。

これが「三角合併」である。

また、「対価の柔軟化」は、消滅会社R社に現金のみを交付して合併できるため、合併を行うQ社にとっては、合併後の出資率を維持できる点でかなり有利な手法といえる。

もっとも、「対価の柔軟化」によって合併を行う会社だけが有利にならないよう、存続会社は消滅会社の株主に対して、対価の割り当てについての理由やその内容が相当なものかどうか書面で事前開示することが求められている(会社法第782条など)ので、即時交付というわけにはいかない。

 

⑵ 三角合併は、海外企業からの買収リスクがあるのに会社法で認めた理由

経済界からの強い要望です。

選択と集中を目指した事業の再編の必要性の高まり経済界から組織再編の対価の柔軟性を求める声が強くなってきた。

具体的には、いわゆる三角合併といわれる、子会社が、他の会社を吸収合併する場合にその親会社の株式を交付する場合や、交付金合併といわれる、消滅会社の株主に現金のみを交付する場合などがある。

このような状況を踏まえ、新会社法においては、吸収合併消滅会社の株主等に関して、存続会社の株式を交付せず、金銭その他の財産を交付する事を認めることとしている。

会社法は、「対価の柔軟化」を盛り込んだ以上、三角合併を認めざるを得なかったのだ。

なお、対価の柔軟化に関する施行は、会社法施行の1年後となっている。

これは、敵対的買収の機会が増える可能性があり、それぞれの企業が十分に対策を講じられるよう期間を設けるためである。

 

⑶ 海外買収リスク防止のために法人税で講じたもの

対価の柔軟性の中で三角合併は、認めたけど交付金合併は認めていないこと。

直接完全支配関係のみと定義すれば、例えば米国の上場企業の日本子会社が合併法人となる場合、この日本子会社もある程度の規模でしょうが、もし従業員持株会があれば、適格合併を認めないということとなる。株主に譲渡損益課税、みなし配当課税の脅しをつきつければ、なかなか踏み込めないでしょう。

 

 




 

■法人税法 第62回 第一問 問1解明のために

■法人税法 第62回 第一問 問1解明のために

■第62回 第一問 問1 売上原価及び費用・損失

 

砕石及び土木工事を主体とする建設業を営む3月末決算の内国法人であるA株式会社(以下「A社」という。)は、次の①及び②により採取した岩石を販売している。A社の当期(平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度をいう。)における岩石の売上高は500,000,000円であった。

 

① 平成24年4月に土地所有者Bとの間で、年間50,000,000円の賃料を支払ってその有する土地から岩石を採取し、採石後はその跡地に盛土及び植林をして返還するという内容の契約を締結した上で、同月から採石を開始した。

地質調査を専門とするC株式会社(以下「C社」という。)の見積りによれば、採石予定総量は1,000,000トン、採石に要する期間は10年、採石後の盛土及び植林に要する費用は1,000,000,000円と見込まれている。なお、当期における採石量は100,000トンであった。

 

② 平成24年10月に、自ら岩石を採取するための土地を900,000,000円で取得し、同月から採石を開始した。

C社の見積りによれば、採石予定総量は600,000トン、採石に要する期間は8年、採石後のこの土地の価額は100,000,000円と見込まれている。なお、当期における採石量は30,000トンであった。

 

以上の取引に関し、A社が当期の益金の額及び損金の額に算入すべき金額について、どのような処理が考えられるか。考えられる処理方法を、理由を付して簡潔に説明しなさい。

なお、上記の事項以外については考慮する必要はない。

 

2.解答

 

【益金の額】

当期の益金の額に算入すべき金額は、岩石の売上高500,000,000円である。

 

【損金の額】

①の取引

(処理案1)

当期の損金の額に算入すべき金額は、土地の賃料50,000,000円である。

 

(理由)

岩石を採取するための土地の賃料50,000,000円は、岩石を売上げるためにに直接貢献しているため売上原価に算入する。採石後の跡地に盛土及び植林に要する費用は、事後的費用であるため売上原価に算入されない。よって売上原価として当期の損金の額に算入すべき金額は、土地の賃料50,000,000円である。

 

(処理案2)

当期の損金の額に算入すべき金額は、土地の賃料50,000,000円と採石後の跡地に盛土及び植林に要する費用の当期対応額100,000,000円との合計額150,000,000円である。

 

(理由)

岩石を採取するための土地の賃料50,000,000円は、岩石を売上げるためにに直接貢献しているため売上原価に算入する。跡地に盛土及び植林をして返還する費用の当期対応分100,000,000円は、岩石の販売価額にも転嫁され、収益・費用対応の関係からみて、より合理的であるため売上原価に算入する。よって売上原価として当期の損金の額に算入すべき金額は、土地の賃料50,000,000円と採石後の跡地に盛土及び植林に要する費用の当期対応額100,000,000円との合計額150,000,000円である。

※利益操作の余地もあるので継続適用となる。

※1,000,000,000円×100,000トン/1,000,000トン=100,000,000円


②の取引について

(処理案1)

当期の損金の額に算入すべき金額はない。

 

(理由)

土地は非減価償却資産であるため。

 

(処理案2)

当期の損金の額に算入すべき金額は、岩石採取量に応じた額40,000,000円である。

 

(理由)

岩石採取用の土地については、その岩石部分も含めて対価を支払っているため、岩石部分について生産高比例法に準ずる方法により計算した当期対応分40,000,000円は売上原価に算入されることになる。よって売上原価として当期の損金の額に算入すべき金額は、岩石採取量に応じた額40,000,000円である。

※通常の売上原価のように進んで原価算入を認めることをしていないので40,000,000円以内の金額を損金経理した場合に認められる。

※(900,000,000円-100,000,000円)×30,000トン/600,000トン=40,000,000円

 

 

3.国税庁の意図

 

法人税法第22条では、その第1項において、「各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と定められ、益金の額及び損金の額については第2項以下に規定が置かれている。そして、同条第3項において、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、①当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、②当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額、③当該事業年度の損失の額、が掲げられている。

問1は、建設業を営む法人が採石地を賃借又は取得して採取した岩石を販売するという事例を題材に、売上原価及び費用・損失についての理解と考え方を問うものである。

以上、いずれも法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問うこととしている。

 


復興のために道路整備や建物建築のためにコンクリートが必要になる。震災の翌年に出題された問題である。

基本通達の2-シリーズは、第59回と第60回に出題され、基本通達の7-シリーズは、第61回に出題されていたが、第62回は、2-シリーズと7-シリーズ接点になる部分が出題された。通達の知識も大切かもしれないが、損金概念をしっかり持っているかが問われた問題になっている。

 

適性な期間損益計算上は、原価として計上していくものであるが、今回の出題は、見積もりと見込が入り込んでいる。状況を読み取り杓子定規に税法の考え方を貫けば課税上にも弊害がでることを感じ取れるかがまずは突破口になる。

 

蛇足だが、国際会計基準が適用されれば、今までのようにルールは激減する。覚える会計から考える会計に変化する。見積もりや見込がどんどん増えていくことをも想定した問題である。知識より考え方を鍛えると思いひとつひとつの通達で能力を磨くようにすること。

 

 

4.参考・前提知識

 

試験に関連する通達を記載している。ていねいに読んで税法の考え方もしっかり吸収すること。

 

 

(砂利採取地に係る埋戻し費用)

2-2-4

法人が他の者の有する土地から砂利その他の土石(以下2-2-4 において「砂利等」という。)を採取して販売(原材料としての消費を含む。)する場合において、当該他の者との契約によりその採取後の跡地を埋め戻して土地を原状に復することを約しているため、その採取を開始した日の属する事業年度以後その埋戻しを行う日の属する事業年度の直前の事業年度までの各事業年度において、継続して次の算式により計算した金額を未払金に計上するとともに当該事業年度において当該土地から採取した砂利等の取得価額に算入しているときは、その計算を認めるものとする。

 

 

 

 

 

(注)1 本文の「採取を開始した日の属する事業年度」、「埋戻しを行う日の属する事業年度」、「直前の事業年度までの各事業年度」及び算式の「当該事業年度前の各事業年度」は、その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、当該連結事業年度とする。

2 算式の「埋戻しに要する費用の額の見積額」及び「当該土地から採取する砂利等の予定数量」は、当該事業年度終了の時の現況により適正に見積るものとする。

3 適格組織再編成が行われた場合の合併法人等における本通達の適用については、被合併法人等の本通達による計算を引き継ぐものとする。

 

解説 

⑴ 公共の河川敷等における砂利採取に代わって、川敷以外の民有地から砂利を採取するという事例がある。このような場合には、むろんその土地の所有者等との間で契約を締結し、採取に伴う対価を支払う一方において、採収後の跡地を埋め戻して土地を原状に復することを約している例がほとんどであろうと思われる。

この場合の埋戻しはむろん砂利採取が終わった後におこなわれることになるので、砂利の採取と跡地の埋戻しとを別個の問題と考えれば、砂利の採取及び販売(原材料としての消費を含む。以下同し)の時点においては、その採取のための費用のみがその取得原価となり、その後の埋戻し費用は採取及び販売の終わった後における事後的費用として損金計上すべきであるということとなる。

しかしながら、一般にこのような場合の跡地の埋戻し費用は、相当多額になるはずであり、砂利採取業者は当然そのことを見越して砂利の販売価額等を定めることになるであろうから、埋戻し費用を見積ってその取得原価として計算することが収益・費用対応の関係から見て、より合理的であることは言うまでもない。

本通達においては、このような観点に立って、民有地から砂利の採取を行う揚合に、契約に基づいてその跡地の埋戻しをすることが義務付けられているときは、砂利採取の進行に応じて費用を見積もり、これをその採取した砂利の取得原価に算入することが認められている。

この場合の毎期の採取量に応ずる埋戻し費用の見積額は、本通達に定める算式により計算することになるのであるが、この場合の考え方は、毎期末の現況に基づき、かつ、既往の見積違いを当期以後の採取量にチャージする形で修正しながら毎期の見積計上額を算定するというものである。

なお、本通達の取扱いは必ずしも民有地から砂利を採取する場合のみに限定されていないから、河川敷等の公有地から砂利を採取する場合でも、その跡地の埋戻しが契約上義務付けられている場合には同様に取り扱われることになる。

⑵ また、法人が砂利採取地そのものを自らの所有地とした上で採取する場合にも埋戻し費用の見積計上が認められるのかどうかという問題がある。この点については、他人の土地から採取する場合には、契約によりその埋戻義務がきわめて明確であるが、自己の土地の埋戻しについては、あらかじめ埋戻義務が確定しているというような関係にはないから、これについて埋戻し費用の見積計上をすることは認められないと解される。

⑶ ところで、砂利等の採取中に組織再編成が行われた場合には、その砂利等の取得価額の計算をどのように行うのか疑問が生じるところである。この点、平成13年度の税制改正により整備された組織再編成に係る税制においては、適格組織再編成により資産等の移転を行った場合には、その移転資産等を帳簿価額により引き継ぎ、又は帳簿価額により譲渡したものとすることにより譲渡損益の計上を繰り延べることとされている。

このため、砂利等を2以上の事業年度にわたって採取する場合のその砂利等の取得価額の計算にあっても適格組織再編成により資産等の移転を行ったときには、その計算を引き継ぐことが実態にあったものと言える。

そこで、本通達の(注3)において、この適格組織再編成が行われた場合の合併法人等における本通達の適用については、被合併法人等の本通達による計算を引き継ぐものとすることが明らかにされている。

 

 

(土石採取用土地等の償却)

7-6-3 

土石又は砂利を採取する目的で取得した土地については、法人がその取得価額のうち土石又は砂利に係る部分につき旧生産高比例法又は生産高比例法に準ずる方法により計算される金額以内の金額を損金の額に算入したときは、これを認める。

 

解説 

土地は一般的には非減価償却資産であるが、土石又は砂利採取用の土地については、その土石又は砂利部分を含めて対価を支払っているので、その部分については旧生産高比例法又は生産高比例法に準ずる方法により、その採取量に応ずる損金算入を認めることとされている。もっとも、これは法人が損金算入の経理をした場合に認めるものであり、一般の売上原価のように税務上進んで原価算入を認めることはしていない。

なお、この計算の基礎となる「その取得価額のうち土石又は砂利に係る部分」とは、例えば、土石を採取することにより一般宅地となってかえって地価があがる場合もあり、一概にいうことはできないが、一つの方法としては、砂利の場合、その取得価額から砂利採取後の土地の価額を控除した金額によることが考えられる。この揚合、この砂利採取後の土地の価格が不明なときは、埋戻し後に見積もられる価額からその土地を原状回復するため埋戻しに要する費用を控除した金額を砂利採収後の土地の価額として計算することもできると考えられる。

 

5.補足説明

 

⑴ 採石後の盛土及び植林の費用100,000,000円の取扱い

違和感を感じる力をつけること。

当期は500,000,000円の売上、来期からは、600,000,000円以上の売上が想定されて原価になるのは50,000,000円のみ。これで、毎年税金を支払い8年後に、土地の売却損800,000,000円計上し、10年後に盛土、植林費用を100,000,000円計上する。税法の持つ原則の考え方はわかるが、何かあると思うことがまずは大切な感覚になる。

盛土及び植林を行い返還する費用100,000,000円は契約により義務づけられていること、販売の際にはその費用を販売価額に転嫁することが想定されること、収益と費用の対応の関係から見てより合理的なことを違和感かららスタートして感じとる力につなげていくこと。けっして知識問題としての出題でないのはあきらかです。

 

⑵ 取得価額の使い方について

 

棚卸資産の取得価額は、購入(デリバティブ取引によるものを除く。)の場合は、購入代価(購入費用の額を加算した金額)とその棚卸資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額との合計額と規定されている。

棚卸資産の取得価額と規定されているが、期中購入の場合これを棚卸資産に計上するか、原価に計上するかを考えれば、会社の経理処理に合わせることになる。通常の販売業なら購入費用含めて原価(仕入)に計上し、期末に在庫として残っているものに購入費用等を配賦して棚卸資産を計上する。建設業のように最初に棚卸資産に計上するならば売上に対応するものを原価に落としていく処理をすることになる。柔軟に考えられるように通達も読むこと。

 

また、次の通達も柔軟に読むこと。

参考

(原価に算入された交際費等の調整)

61の4(2)-7

法人が支出した交際費等の金額のうちに棚卸資産若しくは固定資産の取得価額又は繰延資産の金額(以下61の4(2)-7において「棚卸資産の取得価額等」という。)に含めたため直接当該事業年度の損金の額に算入されていない部分の金額(以下61の4(2)-7において「原価算入額」という。)がある場合において、当該交際費等の金額のうちに措置法第61条の4第1項の規定により損金の額に算入されないこととなった金額(以下61の4(2)-7において「損金不算入額」という。)があるときは、当該事業年度の確定申告書において、当該原価算入額のうち損金不算入額から成る部分の金額を限度として、当該事業年度終了の時における棚卸資産の取得価額等を減額することができるものとする。この場合において、当該原価算入額のうち損金不算入額から成る部分の金額は、当該損金不算入額に、当該事業年度において支出した交際費等の金額のうちに当該棚卸資産の取得価額等に含まれている交際費等の金額の占める割合を乗じた金額とすることができる。

(注) この取扱いの適用を受けた場合には、その減額した金額につき翌事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、翌連結事業年度)において決算上調整するものとする。

 

 

■法人税法 第61回 第一問 問1 解明のために

■法人税法 第61回 第一問 問1 解明のために

■ 第61回 第一問 問1 グループ法人税制

 1.問題

 

内国法人であるA杜(3月末決算)は、貸金業を営む100%子会社である内国法人のB杜(3月末決算)が多額の不良債権を抱えて業績不振に陥っていることから、当面の資金繰りを支援するため、平成24年1月25日に、B社が保有しているX社に対する金銭債権をその帳簿価額である100,000,000円で買い取った(当該金銭債権の時価は10,000,000円とする。)。

なお、A社は、個人株主によってその発行済株式の全部を保有されている法人であり、B社から買い取った金銭債権を同年3月末までに売却又は貸倒処理することなく、そのまま保有している。

この場合のA社及びB社の当期(平成23年4月1日から平成24年3月31日までの事業年度をいう。)における税務上の処理はどのようになるか。その法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。

 

2.解答

 

(A社の仕訳)

借        方

貸        方

項   目

金  額

項  目

金  額

金銭債権

10,000,000

現金

100,000,000

寄附金 ※1

90,000,000

寄附金損金不算入 ※2

90,000,000

その他流出

90,000,000

B社株式 ※3

90,000,000

利益積立金額

90,000,000

 

 (B社の仕訳)

借        方

貸        方

項   目

金  額

項  目

金  額

現金

10,000,000

金銭債権

100,000,000

譲渡損失額 ※4

90,000,000

譲渡損益調整勘定 ※5

90,000,000

譲渡損失調整勘定戻入

90,000,000

現金 ※6

90,000,000

受贈益

90,000,000

受贈益益金不算入 ※7

90,000,000

その他流出

90,000,000

 

(法的な理由・考え方)

 

⑴ 概要

平成22年度の税制改正により、いわゆるグループ法人税制が導入された。これは、企業グループが一体的に経営されている実態を踏まえ、100%持株関係(完全支配関係)のあるグループ内法人間で資産の移転が行われた場合には、その時点で課税関係を生じさせないという基本的な考え方に基づくものである。

 

⑵ A社の税務上の金銭債権の取得価額とB社の税務上の金銭債権の譲渡対価の額 

 課税関係を生じさせないといっても、税務上は時価により譲渡があったものとなるので、A社の金銭債権の取得価額は、10,000,000円、B社の譲渡対価の額は10,000,000円として、それぞれ申告調整を行うこととなる(時価と帳簿価額との差額の調整を申告調整で行う)。

 

⑶ 時価譲渡を認識した上で課税関係を繰り延べるためのA社の税務上の処理

A社は、帳簿価額100,000,000円と時価10,000,000円の差額90,000,000円の寄附金の認容(法22③※1)と寄附金の損金不算入処理(法37②※2)及びB社株式の寄附修正処理(令9七※3)を行う。

⑷ 時価譲渡を認識した上で課税関係を繰り延べるためのB社の税務上の処理 

B社の譲渡した金銭債権の譲渡直前の帳簿価額は10,000,000万円以上であることから、譲渡損益調整資産に該当する。

譲渡損益調整資産の譲渡であっても、資産の譲渡であることには変わりないので、その譲渡に係る対価の額は実際に収受した金銭等の額ではなく、譲渡時の当該資産の価額(時価)によることとなる。「完全支配関係がある法人の間の取引の損益」の規定は、このことを前提とした上で、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額を調整することとしたものである。したがって、B社は、帳簿価額100,000,000円と時価10,000,000円の差額90,000,000円の譲渡損失額の計上(法22③※4)と譲渡損失額の繰延べ(損金不算入)(法61の13①※5)及び受贈益の計上(法22②※6)と受贈益の益金不算入処理(法25の2①※7)を行う。

⑸ まとめ

グループ内法人間で資産の移転が行われた場合には、その時点で所得の金額に影響を与えないことできるが、これは、帳簿価額で取引をしても良いということではなく、あくまで課税の繰延が行われていることになる。




3.国税庁の意図

 

平成22年度の税制改正により、いわゆるグループ法人税制が導入された。これは、企業グループが一体的に経営されている実態を踏まえ、100%持株関係(完全支配関係)のあるグループ内法人間で資産の移転が行われた場合には、その時点で課税関係を生じさせないという基本的な考え方に基づくものである。

問1は、完全支配関係のある内国法人間で行われた金銭債権の簿価譲渡を題材にして、①一定の資産の譲渡損益の繰延べ、②寄附金及び受贈益の処理、③親法人による子法人株式の寄附修正といったグループ法人税制についての理解を問うものである。

 

 

税制を理解するためには、まず、なぜこの規定があるのか。この規定は具体的にどのように使われるのかをわかる必要がある。その積み重ねが理解につながっていく。出題された。この問題でしっかり確認すること。

所得の金額に影響があるなしにかかわらず、税務上は時価により譲渡があったものとするなかで、課税関係を生じさせない処理方法を理解すること。

国税庁の法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)で、公表されていたものからの出題でもあった。重要な改正については、自身でも興味を持ち、資格取得後でもしっかり知識をブラッシュアップできる体制を受験時代から身につけてほしい。 

 4.参考・前提知識

 譲渡損益調整資産(非減価償却資産)を簿価により譲渡した場合の課税関係 国税庁 Q/Aより

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/100810/pdf/10.pdf

 

以下に上記関係法令を記載します。国税庁Q/Aを、ただ読むだけではなく条文と照らし合わせながら何度も行き来しながら読み直していく習慣を身につけること。質を重視する。しっかりしたベースを積み重ねることの重要性を認識すること。高額譲渡は、自身で税務仕訳を書きながら解明も実施すること。

 

法人税法第22条

(各事業年度の所得の金額の計算)



内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。



内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

一  当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

二  前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

三  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

 

法人税法第25条の2  

(受贈益の益金不算入)

内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人から受けた受贈益の額(第37条(寄附金の損金不算入)又は第81条の6(連結事業年度における寄附金の損金不算入)の規定を適用しないとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上損金の額に算入される第37条第7項(第81条の6第6項において準用する場合を含む。)に規定する寄附金の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。

 

法人税法第37条

(寄附金の損金不算入)



内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額(第25条の2(受贈益の益金不算入)又は第81条の3第1項(第25条の2に係る部分に限る。)(個別益金額又は個別損金額の益金又は損金算入)の規定を適用しないとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上益金の額に算入される第25条の2第2項に規定する受贈益の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。



内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

 

法人税法第61条の13  

(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)

内国法人(普通法人又は協同組合等に限る。)がその有する譲渡損益調整資産(固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産で政令で定めるもの以外のものをいう。以下この条において同じ。)を他の内国法人(当該内国法人との間に完全支配関係がある普通法人又は協同組合等に限る。)に譲渡した場合には、当該譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額(その譲渡に係る対価の額が原価の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。以下この条において同じ。)又は譲渡損失額(その譲渡に係る原価の額が対価の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。以下この条において同じ。)に相当する金額は、その譲渡した事業年度(その譲渡が適格合併に該当しない合併による合併法人への移転である場合には、次条第2項に規定する最後事業年度)の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。

 

法人税法基本通達12の4-1-1 

(譲渡損益調整額の計算における「対価の額」の意義)

法人(普通法人又は協同組合等に限る。以下この章において同じ。)が譲渡損益調整額を計算する場合における法第61条の13第1項《完全支配関係がある法人の間の取引の損益》に規定する「譲渡に係る対価の額」とは、令第122条の14第2項 《譲渡損益調整資産の対価の額等の特例》の規定の適用がある場合を除き、法第61条の13第1項に規定する譲渡損益調整資産の譲渡の時の価額をいうことに留意する。

(注) 譲渡損益調整額とは、同項の規定により譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額が損金の額又は益金の額に算入される場合のその算入される金額をいう。以下この章において同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

5.補足説明

 

法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問う問題と国税庁は、公表し、「解釈」ということばをしっかり使ってきた。その設問指示が、「法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。」の文言になっている。

「説明する」「解釈」の解答がほとんどなかったなかで、翌年は、「理由を付して簡潔に説明しなさい」という文言を示してきた。さらによく翌年は、「法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。」と「理由を付して簡潔に説明しなさい」を一問ずつ出題してきた。

「説明する」という自覚をしっかり持つこと、また、解釈についての補足になるが、法律は当てはめで適用することはまれなのです。解釈という論理操作を経て意味が明瞭になってくる。「当てはめでわかるなら専門家はいらない。」 税の専門家としての試験が税理士試験なのです。

 




参考

完全支配関係がある法人間の取引の損益の調整に関する明細書 別表十四(四)