■法人税法 第61回 第一問 問1 解明のために

■法人税法 第61回 第一問 問1 解明のために

■ 第61回 第一問 問1 グループ法人税制

 1.問題

 

内国法人であるA杜(3月末決算)は、貸金業を営む100%子会社である内国法人のB杜(3月末決算)が多額の不良債権を抱えて業績不振に陥っていることから、当面の資金繰りを支援するため、平成24年1月25日に、B社が保有しているX社に対する金銭債権をその帳簿価額である100,000,000円で買い取った(当該金銭債権の時価は10,000,000円とする。)。

なお、A社は、個人株主によってその発行済株式の全部を保有されている法人であり、B社から買い取った金銭債権を同年3月末までに売却又は貸倒処理することなく、そのまま保有している。

この場合のA社及びB社の当期(平成23年4月1日から平成24年3月31日までの事業年度をいう。)における税務上の処理はどのようになるか。その法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。

 

2.解答

 

(A社の仕訳)

借        方

貸        方

項   目

金  額

項  目

金  額

金銭債権

10,000,000

現金

100,000,000

寄附金 ※1

90,000,000

寄附金損金不算入 ※2

90,000,000

その他流出

90,000,000

B社株式 ※3

90,000,000

利益積立金額

90,000,000

 

 (B社の仕訳)

借        方

貸        方

項   目

金  額

項  目

金  額

現金

10,000,000

金銭債権

100,000,000

譲渡損失額 ※4

90,000,000

譲渡損益調整勘定 ※5

90,000,000

譲渡損失調整勘定戻入

90,000,000

現金 ※6

90,000,000

受贈益

90,000,000

受贈益益金不算入 ※7

90,000,000

その他流出

90,000,000

 

(法的な理由・考え方)

 

⑴ 概要

平成22年度の税制改正により、いわゆるグループ法人税制が導入された。これは、企業グループが一体的に経営されている実態を踏まえ、100%持株関係(完全支配関係)のあるグループ内法人間で資産の移転が行われた場合には、その時点で課税関係を生じさせないという基本的な考え方に基づくものである。

 

⑵ A社の税務上の金銭債権の取得価額とB社の税務上の金銭債権の譲渡対価の額 

 課税関係を生じさせないといっても、税務上は時価により譲渡があったものとなるので、A社の金銭債権の取得価額は、10,000,000円、B社の譲渡対価の額は10,000,000円として、それぞれ申告調整を行うこととなる(時価と帳簿価額との差額の調整を申告調整で行う)。

 

⑶ 時価譲渡を認識した上で課税関係を繰り延べるためのA社の税務上の処理

A社は、帳簿価額100,000,000円と時価10,000,000円の差額90,000,000円の寄附金の認容(法22③※1)と寄附金の損金不算入処理(法37②※2)及びB社株式の寄附修正処理(令9七※3)を行う。

⑷ 時価譲渡を認識した上で課税関係を繰り延べるためのB社の税務上の処理 

B社の譲渡した金銭債権の譲渡直前の帳簿価額は10,000,000万円以上であることから、譲渡損益調整資産に該当する。

譲渡損益調整資産の譲渡であっても、資産の譲渡であることには変わりないので、その譲渡に係る対価の額は実際に収受した金銭等の額ではなく、譲渡時の当該資産の価額(時価)によることとなる。「完全支配関係がある法人の間の取引の損益」の規定は、このことを前提とした上で、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額を調整することとしたものである。したがって、B社は、帳簿価額100,000,000円と時価10,000,000円の差額90,000,000円の譲渡損失額の計上(法22③※4)と譲渡損失額の繰延べ(損金不算入)(法61の13①※5)及び受贈益の計上(法22②※6)と受贈益の益金不算入処理(法25の2①※7)を行う。

⑸ まとめ

グループ内法人間で資産の移転が行われた場合には、その時点で所得の金額に影響を与えないことできるが、これは、帳簿価額で取引をしても良いということではなく、あくまで課税の繰延が行われていることになる。




3.国税庁の意図

 

平成22年度の税制改正により、いわゆるグループ法人税制が導入された。これは、企業グループが一体的に経営されている実態を踏まえ、100%持株関係(完全支配関係)のあるグループ内法人間で資産の移転が行われた場合には、その時点で課税関係を生じさせないという基本的な考え方に基づくものである。

問1は、完全支配関係のある内国法人間で行われた金銭債権の簿価譲渡を題材にして、①一定の資産の譲渡損益の繰延べ、②寄附金及び受贈益の処理、③親法人による子法人株式の寄附修正といったグループ法人税制についての理解を問うものである。

 

 

税制を理解するためには、まず、なぜこの規定があるのか。この規定は具体的にどのように使われるのかをわかる必要がある。その積み重ねが理解につながっていく。出題された。この問題でしっかり確認すること。

所得の金額に影響があるなしにかかわらず、税務上は時価により譲渡があったものとするなかで、課税関係を生じさせない処理方法を理解すること。

国税庁の法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)で、公表されていたものからの出題でもあった。重要な改正については、自身でも興味を持ち、資格取得後でもしっかり知識をブラッシュアップできる体制を受験時代から身につけてほしい。 

 4.参考・前提知識

 譲渡損益調整資産(非減価償却資産)を簿価により譲渡した場合の課税関係 国税庁 Q/Aより

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/100810/pdf/10.pdf

 

以下に上記関係法令を記載します。国税庁Q/Aを、ただ読むだけではなく条文と照らし合わせながら何度も行き来しながら読み直していく習慣を身につけること。質を重視する。しっかりしたベースを積み重ねることの重要性を認識すること。高額譲渡は、自身で税務仕訳を書きながら解明も実施すること。

 

法人税法第22条

(各事業年度の所得の金額の計算)



内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。



内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。

一  当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

二  前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額

三  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

 

法人税法第25条の2  

(受贈益の益金不算入)

内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人から受けた受贈益の額(第37条(寄附金の損金不算入)又は第81条の6(連結事業年度における寄附金の損金不算入)の規定を適用しないとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上損金の額に算入される第37条第7項(第81条の6第6項において準用する場合を含む。)に規定する寄附金の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。

 

法人税法第37条

(寄附金の損金不算入)



内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額(第25条の2(受贈益の益金不算入)又は第81条の3第1項(第25条の2に係る部分に限る。)(個別益金額又は個別損金額の益金又は損金算入)の規定を適用しないとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額又は各連結事業年度の連結所得の金額の計算上益金の額に算入される第25条の2第2項に規定する受贈益の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。



内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

 

法人税法第61条の13  

(完全支配関係がある法人の間の取引の損益)

内国法人(普通法人又は協同組合等に限る。)がその有する譲渡損益調整資産(固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産で政令で定めるもの以外のものをいう。以下この条において同じ。)を他の内国法人(当該内国法人との間に完全支配関係がある普通法人又は協同組合等に限る。)に譲渡した場合には、当該譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額(その譲渡に係る対価の額が原価の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。以下この条において同じ。)又は譲渡損失額(その譲渡に係る原価の額が対価の額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。以下この条において同じ。)に相当する金額は、その譲渡した事業年度(その譲渡が適格合併に該当しない合併による合併法人への移転である場合には、次条第2項に規定する最後事業年度)の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入する。

 

法人税法基本通達12の4-1-1 

(譲渡損益調整額の計算における「対価の額」の意義)

法人(普通法人又は協同組合等に限る。以下この章において同じ。)が譲渡損益調整額を計算する場合における法第61条の13第1項《完全支配関係がある法人の間の取引の損益》に規定する「譲渡に係る対価の額」とは、令第122条の14第2項 《譲渡損益調整資産の対価の額等の特例》の規定の適用がある場合を除き、法第61条の13第1項に規定する譲渡損益調整資産の譲渡の時の価額をいうことに留意する。

(注) 譲渡損益調整額とは、同項の規定により譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額が損金の額又は益金の額に算入される場合のその算入される金額をいう。以下この章において同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

5.補足説明

 

法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問う問題と国税庁は、公表し、「解釈」ということばをしっかり使ってきた。その設問指示が、「法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。」の文言になっている。

「説明する」「解釈」の解答がほとんどなかったなかで、翌年は、「理由を付して簡潔に説明しなさい」という文言を示してきた。さらによく翌年は、「法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。」と「理由を付して簡潔に説明しなさい」を一問ずつ出題してきた。

「説明する」という自覚をしっかり持つこと、また、解釈についての補足になるが、法律は当てはめで適用することはまれなのです。解釈という論理操作を経て意味が明瞭になってくる。「当てはめでわかるなら専門家はいらない。」 税の専門家としての試験が税理士試験なのです。

 




参考

完全支配関係がある法人間の取引の損益の調整に関する明細書 別表十四(四)

 

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