■法人税法 第62回 第一問 問2 解明のために
■16 第62回 第一問 問2 合併
1.問題
P社は米国において電子部品の製造業を営み、米国の証券取引所に上場された外国法人である。この度、日本における事業拡大のため、V県W市で電子部品の製造販売業を営んでいる100%子会社である内国法人のQ株式会社(以下「Q社」という。)を合併法人とし、X県Y市で電子回路を製造している内国法人のR株式会社(以下「R社」という。)を被合併法人とする合併を実施し、R社の100%親会社である内国法人のS株式会社(P社との出資関係はない。以下「S社」という。)に対して合併の対価としてP社株式を交付することとした。
以上の事実関係の下で、次の問いに答えなさい。
⑴ Q社とR社との合併が適格合併に該当するための要件について、合併対価に関する要件と合併当事者間の要件とに分けて、簡潔に説明しなさい。
⑵ Q社とR社との合併が適格合併に該当する場合におけるQ社、R社及びS社の課税関係について、簡潔に説明しなさい。
2.解答
問2⑴
(合併対価に関する要件)
合併対価に関する要件は、被合併法人の株主等(S社)に、次に掲げる株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないこととされており、いわゆる「三角合併」の場合には、②の株式以外の資産が交付されないことが要件となる。
① 合併法人株式(Q社株式)
② 合併親法人株式(P社株式)
また、P社株式を合併対価とるためには、P社が合併法人(Q社)の発行済株式等の全部を保有していることが要件となる。
(合併当事者間の要件)
合併前において合併法人(Q社)と被合併法人(R社)との間に出資関係がないため、次に掲げるすべてを満たすことが要件となる。
① 事業関連要件
被合併事業と合併事業とが相互に関連するものであること
② 事業規模要件又は経営参画要件
イ 事業規模要件
被合併事業及び合併事業のそれぞれの売上金額、従業員数、資本金額等の事業規模の割合が概ね5倍を超えないこと
ロ 経営参画要件
合併前の被合併法人の特定役員のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが合併後の特定役員になることが見込まれること
③ 従業員引継要件
被合併法人の合併直前の従業員のうち、概ね80%以上に相当する数の者が合併法人の業務に従事することが見込まれること
④ 事業継続要件
被合併事業が合併法人において合併後に引き続き営まれることが見込まれること
⑤ 株式継続保有要件
合併直前の被合併法人の株主で合併により交付される合併法人の株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式全部を継続保有すると見込まれる者が有する被合併法人の株式数の合計額が被合併法人の発行済株式総数の80%以上であること。
なお、⑤については、株主等の数が50人以上では適用要件とはならない。
Q社の事業である電子回路の製造は電子部品の製造を行うP社、R社とも密接な関連があると想定されるのでリストラを実施せずQ社の資源を残すなら適格合併に該当する要件を満たす可能性は高いと想定される。
■参考 解答例
資本関係のない法人間で行う合併については、共同事業要件を満たせば適格合併に該当する。共同事業要件とは、共同で事業を行う(買収でない)状況であれば、被合併法人(R社)が清算したとしても実質が継続されているものとして課税の繰延を行うものである。
R社の実質が継続されるためには、電子回路事業を活かせる相手と、規模の差がなく(規模が違う場合には経営中枢人物が中枢に残ること)、リストラがなく、R社の電子回路製造事業が営まれていることが要件となる。
問2⑵
(Q社の課税関係)
⑴ P社株式のみなし譲渡
Q社が、合併契約日に、P社株式を保有していた場合には、P社株式をその合併契約日の価額で譲渡し、かつ、その価額で取得したものとみなすこととされている。
この規定は、Q社が合併対価として交付するP社株式で合併契約日において保有するものについては、その合併契約日に時価による譲渡をし、直ちにその価額で取得をしたものとして、それまでの含み損益を清算するためのものであり、その合併が適格合併に該当するか否かにかかわらず適用される。
⑵ P社株式の譲渡損益
Q社が、自己を合併法人とする適格合併によりP社株式(Q社の発行済株式等の全部を保有するP社の株式をいう。)をS社に交付した場合には、その譲渡に係る対価の額は、その適格合併の直前の帳簿価額に相当する金額とすることとされており、対価の額と原価の額が同額となるため、譲渡損益は生じないこととなる。
(R社の課税関係)
R社が適格合併によりQ社にその有する資産及び負債の移転をしたときは、最後事業年度終了時の帳簿価額により引継ぎをしたものとして、各事業年度の所得の金額を計算することとされているため、移転資産等の譲渡利益額又は譲渡損失額は生じないこととなる。
(S社の課税関係)
⑴ R社株式の譲渡損益
S社が、合併により、P社株式(Q社の発行済株式等の全部を保有するP社の株式をいう。)のみが交付された場合には、R社株式の譲渡対価の額を当該合併直前のR社株式の帳簿価額に相当する金額として計算することとされているので、対価の額と原価の額(合併の直前のR社株式の帳簿価額)が同額となるため、譲渡損益は生じないこととなる。
⑵ Q社株式の取得価額
S社が合併により交付を受けたP社株式の取得価額は、S社にP社株式のみが交付されたものである場合には、R社株式の合併の直前の帳簿価額に相当する金額に、P社株式の交付を受けるために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額となる。
3.国税庁の意図
会社法による合併等対価の柔軟化が平成19年5月から施行され、合併法人の親法人の株式を合併対価とするいわゆる三角合併が可能となった。これを受けて、税制においても、適格合併等における適格要件のうち合併等の対価に、合併親法人株式等以外の資産が交付されない場合のその合併親法人株式等が追加された。
問2は、外国法人が日本における事業拡大のために三角合併を行うという事例を題材に、それが適格合併に該当するための要件、適格合併に該当する場合の合併関係者の課税関係についての基本的な理解を問うものである。
以上、いずれも法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問うこととしている。
合併等対価の柔軟化の施行日は、会社法施行日の1年後となった。
合併等対価の柔軟性とは何を意味するのか?なぜ、施行が1年遅れたのか?
合併に際し合併対価が合併法人株式以外のものも可能になったこと、それにより三角合併が可能となり合併法人の親法人は外資系企業で良いことから外資系企業の買収も懸念されたため対策期間のため1年施行を延ばすこととなった。
法人税法も実は、簡単には適格合併にはさせない手法を三角合併に講じている。
対価の柔軟化といいつつ合併親法人株式のみしか認めていないこと。もうひとつは、合併法人から見て完全100%保有している親法人の親法人株式しか対価として認めていない点である。ある程度の規模の会社であれば従業員持株会を持つようになるが、それさえ認めていないのだ。ここまで、きちんと理解できれば、問題文の読みも変わってくるはず。P社は、米国上場企業で、事実上R社を買収し日本国の電子回路技術を手に入れ電子部品と販売網の構築を図る。Q社は100%子会社だからこそ適格合併ができる。三角合併という手法を使うためQ社への100%支配は変わらない。Q社自身が大きくなってもさらに適格合併を繰り返すことができる等々である。
4.参考・前提知識
⑴ 従業員持株会さえ認めていない「直接完全支配関係」
国税庁の意図で記載した従業員持ち株会さえ認めていない部分となる。これで適格要件を満たせない合併法人となるべく外資系企業もあるはず。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/33/26.htm
⑵ 何度も出題される適格判断
過去に何度か適格要件が試されている。
第52回 第一問 問1
第54回 第一問 問2
第55回 第二問 問1
第62回 第一問 問2
この機会に適格要件を条文ベースでもしっかり確認すること。わからないところを解明しようとする姿勢が、解明力や読解力をつけていくことになるので、あきらめずに挑戦すること。
法人税法第2条第12号の8
適格合併…
次のいずれかに該当する合併で被合併法人の株主等に合併法人株式
(合併法人の株式又は出資をいう。)
又は合併親法人株式
(合併法人との間に当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人の株式又は出資をいう。)
のいずれか一方の株式又は出資以外の資産
(当該株主等に対する剰余金の配当等
(株式又は出資に係る剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。)
として交付される金銭その他の資産及び合併に反対する当該株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除く。)
が交付されないものをいう。
イ その合併に係る被合併法人と合併法人
(当該合併が法人を設立する合併(以下この号において「新設合併」という。)である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)
との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併
ロ その合併に係る被合併法人と合併法人
(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)
との間にいずれか一方の法人による支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該合併のうち、次に掲げる要件のすべてに該当するもの
⑴ 当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること
(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該相当する数の者が、当該合併後に当該合併法人の業務に従事し、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること。)。
⑵ 当該合併に係る被合併法人の当該合併前に営む主要な事業が当該合併後に当該合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること
(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該主要な事業が、当該合併後に当該合併法人において営まれ、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。)。
ハ その合併に係る被合併法人と合併法人
(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)
とが共同で事業を営むための合併として政令で定めるもの
法人税法施行令第4条の3
(適格組織再編成における株式の保有関係等)
法第2条第十二号の八 (定義)に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係は、合併の直前に当該合併に係る合併法人と当該合併法人以外の法人との間に当該法人による直接完全支配関係
(二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等
(同条第十二号の七の五 に規定する発行済株式等をいう。)
の全部を保有する関係をいう。)
があり、かつ、当該合併後に当該合併法人と当該法人
(以下この項において「親法人」という。)
との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続すること
(当該合併後に親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該合併法人と当該親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係があり、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人と当該合併に係る合併法人との間に当該適格合併に係る合併法人による直接完全支配関係が継続することとし、当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該合併法人と親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続することとする。)
が見込まれている場合における当該合併に係る合併法人と親法人との間の関係とする。
2 法第2条第十二号の八 イに規定する政令で定める関係は、次に掲げるいずれかの関係とする。
一 合併に係る被合併法人と合併法人
(当該合併が法人を設立する合併(次項及び第4項において「新設合併」という。)である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人。)
との間にいずれか一方の法人による完全支配関係
(当該合併が被合併法人の株主等に合併法人の株式その他の資産が交付されない合併(以下第4項までにおいて「無対価合併」という。)
である場合にあつては、合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係に限る。)
がある場合における当該完全支配関係
(次号に掲げる関係に該当するものを除く。)
二 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係
(当該合併が無対価合併である場合にあつては、次に掲げる関係がある場合における当該完全支配関係に限る。)
があり、かつ、当該合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること
(当該合併後に当該同一の者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該同一の者と当該合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係があり、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人と当該合併に係る合併法人との間に当該適格合併に係る合併法人による完全支配関係が継続することとし、当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該同一の者と当該合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することとする。)
が見込まれている場合における当該合併に係る被合併法人と合併法人との間の関係
イ 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
ロ 一の者が被合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
ハ 合併法人及び当該合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
ニ 被合併法人及び当該被合併法人の発行済株式等の全部を保有する者が合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
3 法第2条第十二号の八 ロに規定する政令で定める関係は、次に掲げるいずれかの関係
(前項各号に掲げる関係に該当するものを除く。)
とする。
一 合併に係る被合併法人と合併法人
(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)
との間にいずれか一方の法人による支配関係
(当該合併が無対価合併である場合にあつては、前項第二号ハ又はニに掲げる関係がある場合における当該支配関係に限る。)
がある場合における当該支配関係
(次号に掲げる関係に該当するものを除く。)
二 前項第二号中「完全支配関係」とあるのを「支配関係」と読み替えた場合における同号に掲げる関係
4 法第2条第十二号の八 ハに規定する政令で定めるものは、同号 イ又はロに該当する合併以外の合併
(無対価合併にあつては、当該無対価合併に係る被合併法人のすべて又は合併法人が資本又は出資を有しない法人であるものに限る。)
のうち、次に掲げる要件
(当該合併に係る被合併法人の株主等の数が五十人以上である場合又は当該合併に係る被合併法人のすべて若しくは合併法人が資本若しくは出資を有しない法人である場合には、第一号から第四号までに掲げる要件)
のすべてに該当するものとする。
一 合併に係る被合併法人の被合併事業(当該被合併法人の当該合併前に営む主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。)と当該合併に係る合併法人の合併事業
(当該合併法人の当該合併前に営む事業のうちのいずれかの事業をいい、当該合併が新設合併である場合にあつては、他の被合併法人の被合併事業をいう。次号及び第四号において同じ。)
とが相互に関連するものであること。
二 合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事業
(当該被合併事業と関連する事業に限る。)
のそれぞれの売上金額、当該被合併事業と合併事業のそれぞれの従業者の数、当該被合併法人と合併法人
(当該合併が新設合併である場合にあつては、当該被合併法人と他の被合併法人)
のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね五倍を超えないこと又は当該合併前の当該被合併法人の特定役員
(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。)
のいずれかと当該合併法人
(当該合併が新設合併である場合にあつては、他の被合併法人)
の特定役員のいずれかとが当該合併後に当該合併に係る合併法人の特定役員となることが見込まれていること。
三 合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること
(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該相当する数の者が、当該合併後に当該合併法人の業務に従事し、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること。)。
四 合併に係る被合併法人の被合併事業
(当該合併に係る合併法人の合併事業と関連する事業に限る。)
が当該合併後に当該合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること
(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当該被合併事業が、当該合併後に当該合併法人において営まれ、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。)。
五 合併の直前の当該合併に係る被合併法人の株主等で当該合併により交付を受ける合併法人の株式(出資を含む。)又は法第2条第十二号の八 に規定する合併親法人株式のいずれか一方の株式(議決権のないものを除く。)の全部を継続して保有することが見込まれる者
(当該合併後に当該者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該者が当該株式の全部を保有し、当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人が当該株式の全部を継続して保有することが見込まれるときの当該者とし、当該合併後に当該合併に係る合併法人
(当該合併に係る被合併法人の株主等が当該合併により同号 に規定する合併親法人株式の交付を受ける場合にあつては、同号 に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人)
を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該株式の全部を継続して保有することが見込まれるときの当該者とする。)
並びに当該合併に係る合併法人
(当該合併に係る被合併法人の株主等が当該合併により同号 に規定する合併親法人株式の交付を受ける場合にあつては、同号 に規定する全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人を含む。)
及び当該合併に係る他の被合併法人が有する当該合併に係る被合併法人の株式(議決権のないものを除く。)の数(出資にあつては、金額。)を合計した数が当該被合併法人の発行済株式等
(議決権のないものを除く。)の総数(出資にあつては、総額。)の百分の八十以上であること。
5~23省略
5.補足説明
⑴ 三角合併とは
三角合併とは、吸収合併の一形態で、吸収合併時の合併対価(消滅会社の株主への対価)として、存続会社の親会社の株式を交付する合併形態のことをいう。
例えば、P社という米国に本社を置く会社があり、P社には日本に100%出資の子会社Q社をもっていた。このQ社が、日本企業R社を吸収合併した。
これまでの商法では、吸収合併を行う側のQ社(存続会社)は、吸収される側のR社(消滅会社)に対し、Q社の株式を割り当てなければならなかったため、合併前のR社の株主は、合併後のQ社の株主になるしかなかった。
しかし、新会社法では、Q社は消滅会社のR社株主に対し、Q社の株式の他に、現金あるいはその他の財産を交付してもよいことになった。これを「対価の柔軟化」という。
「その他の財産」が交付できる、すなわち、例に挙げたQ社は、R社の株主S社に対して、Q社の親会社P社の株式を交付することができるようになった。
実質的に、外国企業P社が、日本企業R社を買収したことになる。
これが「三角合併」である。
また、「対価の柔軟化」は、消滅会社R社に現金のみを交付して合併できるため、合併を行うQ社にとっては、合併後の出資率を維持できる点でかなり有利な手法といえる。
もっとも、「対価の柔軟化」によって合併を行う会社だけが有利にならないよう、存続会社は消滅会社の株主に対して、対価の割り当てについての理由やその内容が相当なものかどうか書面で事前開示することが求められている(会社法第782条など)ので、即時交付というわけにはいかない。
⑵ 三角合併は、海外企業からの買収リスクがあるのに会社法で認めた理由
経済界からの強い要望です。
選択と集中を目指した事業の再編の必要性の高まり経済界から組織再編の対価の柔軟性を求める声が強くなってきた。
具体的には、いわゆる三角合併といわれる、子会社が、他の会社を吸収合併する場合にその親会社の株式を交付する場合や、交付金合併といわれる、消滅会社の株主に現金のみを交付する場合などがある。
このような状況を踏まえ、新会社法においては、吸収合併消滅会社の株主等に関して、存続会社の株式を交付せず、金銭その他の財産を交付する事を認めることとしている。
会社法は、「対価の柔軟化」を盛り込んだ以上、三角合併を認めざるを得なかったのだ。
なお、対価の柔軟化に関する施行は、会社法施行の1年後となっている。
これは、敵対的買収の機会が増える可能性があり、それぞれの企業が十分に対策を講じられるよう期間を設けるためである。
⑶ 海外買収リスク防止のために法人税で講じたもの
対価の柔軟性の中で三角合併は、認めたけど交付金合併は認めていないこと。
直接完全支配関係のみと定義すれば、例えば米国の上場企業の日本子会社が合併法人となる場合、この日本子会社もある程度の規模でしょうが、もし従業員持株会があれば、適格合併を認めないということとなる。株主に譲渡損益課税、みなし配当課税の脅しをつきつければ、なかなか踏み込めないでしょう。